メモ:泣く子も黙るシミリー集

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オリジナルのシミリー(=直喩)を集めたネタ帳です。

Photo by Akane Kiyohara

シミリー集

  • 熟年夫婦が井の頭公園を散歩するように
  • 昼下がりの貴婦人が奏でるメヌエットのような
  • まるでハートウォーミングな事故物件みたいに
  • たこ焼きが見えなくなるくらいマヨネーズをかけるような
  • 炊き込みごはんをフォークの背に乗せたような
  • くたびれた下着を部屋干しするように
  • 茹でたてのアスパラガスにマヨネーズをつけるような
  • 伸びきったうどんに半熟玉子を絡めるような
  • まるで死期を悟ったエリマキトカゲみたいに
  • 夏の終わりに背筋を伸ばすヒマワリのような
  • 退屈なフランス映画のエンドロールみたいに
  • 丹念に焼かれたバウムクーヘンのように
  • セーターから覗く白いキャミソールのような
  • 色彩を持たない風が頬を撫でるように
  • 思慮深い少女がゆっくりと筆を取るように
  • 薄いマティーニ・グラスの縁に唇をつけるような
  • 仮面の影に隠れた嘲笑のような
  • 達筆なダイイング・メッセージみたいに
  • 深い洞察力を備えた夜行性の猛禽類のような
  • ありあまる感受性をタイムカプセルに詰め込んだような
  • 寡黙な老人がやっとの思いで受話器を持ち上げたような
  • 神経質な税理士が重箱の隅をつつくように
  • 粘り気を失いつつある納豆のような
  • 臆病な船乗りが家族に想いを馳せるように
  • 壇上でブルースを歌う道化師のように
  • 夢と現実が共存する真夜中のハイウェイのような
  • まるで分別のある連続殺人犯のように
  • 決して鳴り止むことのないドラムロールのような
  • 自分の夢にリボンをつけてプレゼントするような
  • 絢爛なペルシャ絨毯に牛乳をぶちまけたような
  • 高級な額縁で飾られた子どもの落書きのように
  • ひたむきに納豆を混ぜ続ける虚無僧のように
  • 心が雨漏りしているような
  • 雪解けを心待ちにするアルピニストのような
  • 政府がマフィアを一掃したあとの束の間の平穏みたいに
  • 濡れた指先で愛の手触りを確かめるみたいに
  • しかるべき情緒を漂わせて届いた手紙のような
  • 限りなく優雅に進化した爬虫類のように
  • 盛衰を繰り返した古代の王朝のように
  • まるで江戸の街火消しの強引な地元びいきのような
  • 大吉のおみくじをそっと財布に忍ばせるように
  • 日雇い労働者がささやかな幸せを手にするような
  • 滴り落ちる工夫のしずくが堆積した知恵の鍾乳洞のように
  • 恋人同士の象徴的なアイコンタクトのように
  • 胸の高鳴りを抑えて一歩を踏み出す少年のように
  • まるで絶望の淵に寄り添った希望のような
  • デリケートな温度管理を要する高級食材のような
  • まるで遅れてやって来たサンタクロースみたいに
  • 出張の多い政治家みたいに
  • 笑顔で殴り合うギャングスタのような
  • 極めてエレガントに配置された牛フィレ肉のように
  • 緻密に熟成されたチーズみたいに
  • 楽観的な路上生活者のような
  • 冬の到来を告げるホットカーペットみたいに
  • まるで予告もなく新しい世界が始まったみたいに
  • 白昼の押し込み強盗みたいに
  • 勇気の欠片をかき集めて告白するみたいに
  • 悪夢から覚めた朝に濃い目のエスプレッソを飲み干すような

参考:村上春樹大先生

風の歌を聴け(1979)

  • まるでロールシャッハ・テストにでも使われそうな
  • まるで蝿が蝿叩きを眺めるように
  • 別の体に別の魂をむりやり詰めこまれてしまったような
  • まるで浜辺にうちあげられた人魚のように
  • 安定の悪いテーブルに薄いグラスをそっと載せるような
  • コンサート・ピアニストが意識を集中する時のように
  • 見た人の心の中の最もデリケートな部分にまで突き通ってしまいそうな
  • 故障した飛行機に乗り合わせたみたいに
  • 荒野に立った2本の墓石のように
  • まるでずれてしまったトレーシング・ペーパーのように
  • 僕の答えの存在感を手のひらの上で確かめてみるといったような

1973年のピンボール(1980)

  • まるで涸れた井戸に石でも放り込むように
  • ホーム・ベースの上に置いた夏みかんを外野から見るくらいに
  • まるで「不思議の国のアリス」に出てくるチェシャ猫のように
  • 断片が混じりあってしまった二種類のパズルを同時に組み立てているような
  • まるでFM放送のステレオ・チェックみたいに
  • ロンドンの免税店に積み上げられたカシミヤのセーターのような
  • まるでグラスを持つ手までがすきとおってしまいそうなほどの
  • ちょうど帝政ロシア時代に思想犯が送りこまれたシベリア流刑地のような
  • 缶詰のオイル・サーディンのような
  • まるでピンボール・ゲームそのものがある永劫性を目指しているように
  • 意味のない古い夢のような
  • まるで奥深いジャングルの小径を白象にまたがって進むような
  • まるで救命ボートの上から沈んで行く船を眺めるような
  • まるでダウンヒルのコースに立ったゴルファーのように
  • 日常生活の中に打ちこまれた柔らかなくさびのように
  • 鏡に向かって何度も練習を積んだような
  • 体じゅうに紙やすりをかけられたような
  • まるで湿った落ち葉をむりやり焚きつけたような
  • 新聞の一面に載っている性別年齢別の内閣支持率のグラフのような
  • まるで渓流を上下する巨大な鱒のように
  • 湿った新聞紙を丸めてガスバーナーで火をつけたような
  • まるで平板な鋳型に流し込まれたどろどろとした光のように
  • 巨大な蛾が金粉を撒きちらした後のように
  • どこかに折り返しでもつけておかなければ間違えてしまいそうなほどの
  • まるで捜し物の最中に、何を捜していたのかを忘れてしまったような
  • まるで今年の冬は雪が少ないからスキーはあきらめなさい、とでも言う時のような
  • まるで二サイズばかり小さな帽子をかぶったように
  • バルザックの小説に出てくるカワウソのように
  • 新聞紙を細かく引き裂いて厚いカーペットの上にまいたほどの
  • 品の良い記念碑のように
  • まるで足もとでかしこまった二匹の仔犬のように
  • 夢のかけらでも眺めるように
  • まるで第二次大戦の撃墜王のように
  • まるで夏の盛りがもう一度巡ってきたような
  • まるで古新聞を丸めて押し込んだような
  • 暖房がききすぎた歯医者の待合室のような
  • 意識の隙間のひとつひとつに白熊でも歩いてわたれそうなほどの
  • 気球が最後の砂袋を投げ捨てるように
  • ちょうど良質のハッシシを吸う時のように
  • 夢を映し出す二重の鏡のように
  • 床に落ちたドーナツでも眺めるような
  • 群れをはぐれた仔牛のような
  • まるで大学院を出たての講師のような
  • 冬の陽だまりに落ちた蜂の羽音のような
  • 黒々と光る地底の虫のような
  • まるで教授室に呼ばれた出来の悪い学生のような
  • 実体のない物質を鋭利な刃物でスライスした切口のように
  • まるでチョークで床に線を引いて並べでもしたように
  • アクリル樹脂の中で固められた蠅のように
  • まるで蝋燭を吹き消した後に立ちのぼる一筋の白い煙のように
  • まるでボーリング・レーンの端からスプリットの7ピンと10ピンに話しかけられてるみたい
  • まるで世界が一枚のヴェールを脱ぎ捨てたように

四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて(1981)

  • 平和な時代の古い機械のような

羊をめぐる冒険(1982)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(1985)

  • その小さな世界に完結したまま行き場所を失ってしまった一対の彫像のよう
  • 安物のチーズケーキみたいに
  • まるで誰かが巨大なロースト・ビーフをのっぺりとした壁に思いきり投げつけた時の音のよう
  • J・G・バラードの小説に出てくるみたいな
  • まるで閉館するホテルからソファーやシャンデリアがひとつひとつ運びだされているのを眺めているような

ノルウェイの森(1987)

  • アパートを改造した刑務所かあるいは刑務所を改造したアパートみたいな
  • 世界中のジャングルの虎がみんな溶けてバターになってしまうくらい
  • 歯を一本一本とりはずして磨いてるんじゃないかという気がするくらい
  • 一昔前のポーランド映画みたいな

ダンス・ダンス・ダンス(1988)

  • 木の葉の間からこぼれる夏の夕暮れの最後の光のような
  • 上品な動物の清潔な内臓のひだのように
  • まるでカフェ・オ・レの精みたいに
  • あたかも妥当な場所に気のきいた装飾句を挿入するかのように
  • ひびの入ったダチョウの卵を温めるみたいな
  • ドイツ・シェパードが立ったまま一匹入りそうなくらい
  • トゥルーマン・カポーティの文章のように

国境の南、太陽の西(1992)

  • そのへんにある何もかもをお盆に載せてもっていきたくなるような
  • 風のない日に静かに立ちのぼる小さな煙のような
  • 気取ったフランス料理店の支配人がアメリカン・エクスプレスのカードを受け取るときのような
  • まるで噂でしか聞いたことのない極めて珍しい精密機械を前にしたときのように

ねじまき鳥クロニクル(1994)

  • 致命的に遅れている列車を待っている駅員のように
  • 精神異常者の画家によって描かれた、この世には存在しないはずの想像上の光景のように
  • 少し前に水をすっかり失ってしまった海底のように
  • まるでセロリの筋をいっぱい集めてそのままどんぶりに入れた料理を見るような
  • ムンクがカフカの小説のために挿絵を書いたらきっとこんな風になるんじゃないかと思わせるような

スプートニクの恋人(1999)

  • 内省的なピアニストが歳月をかけて磨き上げた短めのカデンツァを思わせる、自動的な優雅さ
  • 曇り空をそのまま飲み込んでしまったような
  • 広々としたフライパンに新しい油を敷いたときのような
  • ジャン・リュック・ゴダールの古い白黒映画の台詞みたいに
  • 畑の真ん中で誰かがつぶやいている牧歌的なひとりごとみたい
  • なにか珍しい動力で作動する機械でも見るみたいに
  • まるで傷つきやすい動物を扱うみたいに
  • まるで詩人が句読点を整理するみたいに
  • 峠の砦にこもったスパルタ人みたいに
  • 異なった趣味と疾病を有する何人かの頑固な婦人たちが一堂に会して、ろくすっぽ口もきかずに作りあげたパッチワークみたいに
  • 顔のない水夫が夜の海に沈んだ碇をゆっくりとたぐりよせるように
  • 何らかの理由で時の流れに置き去りにされた古い世界の一角のように
  • 限定された動きだけをもとめる深海の捕食生物のように
  • 惑星が気をきかせてずらっと一列に並んでくれたみたいに

シドニー!(2001)

  • 過不足なく日々の責務を果たしながら、中年の後半に入りつつある人を思わせるような
  • 共和党を支持するラッパーを見るときのような
  • 緊張症のダンサーが、オーディションで『ウェストサイド・ストーリー』の出だしの部分を踊っているみたい

海辺のカフカ(2002)

  • まるで夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに
  • 巨大な蛾があとに残していった鱗粉みたいに

1Q84(2009)

  • 行進する歩兵部隊に踏みつけられた草むらみたいな

騎士団長殺し(2017)

  • 特別な料理に用いる、特別な種類のパスタみたいに

Text by 酒田しんご(@jugglershingo