彼女を諦めないっていう選択肢しかなかった。石垣元庸/B-BOY NONman(弁護士)- インタビュー #6

弁護士、ブレイクダンサー、起業家。

日本が世界に誇るブレイクダンスチーム「一撃(ICHIGEKI)」で活躍し、司法試験に合格、現在はライブ配信事業を手掛ける制作会社のCEOも務める、“B-BOYノンマン”こと石垣元庸。

彼が、いかにして育ち、今何を思うのかーー…?

「踏み込んだ話はしない」がテーマの対談企画、第6弾です。

▲石垣元庸(Motonobu Ishigaki)

「あなたとの未来が見えません」って

酒田:弁護士になったきっかけは?

NONman:大学を卒業して、3年間フリーターをしながらダンスをしていたんですが、大学時代から付き合っていた彼女に「あなたとの未来が見えません」って突然フラれたんですね。

酒田:あら…

NONman:彼女は銀行に就職した中で、僕はフリーターでダンスをしながらフラフラしていたので…。

彼女とは大学で出会って、付き合う前から「おれこの人と結婚するな」って思ってたんですよ。で、フラれたときに、これはやばいと。ここで諦めたら人生終わるな、と。もう彼女を諦めないっていう選択肢しかなかった。

酒田:カッケェ。

あきらめの悪い男なんです

NONman:普通に就職しても彼女に振り向いてもらえないだろうから、大きなチャレンジをするしかない。「そうや、資格や」と。「どうせやるなら、最高峰の司法試験やろ」と。

酒田:そこからの勉強は?

NONman:2005年のBOTY※1でベストショーを獲って、帰国後に法科大学院に入って勉強をスタートしました。

1日平均10時間は勉強してましたね。でも、僕ってほんまに記憶力がなくて。大学2年生で免許の筆記試験も落ちたくらい。

酒田:(笑)

NONman:初めのうちは覚えたり、あとで振り返るために綺麗にノートを作ってたんですけど、とにかく覚えない作戦に切り替えたので、基本的な参考書にどんどん考えをまとめて加筆していくスタイルに変更しました。

憲法なら基本中の基本「芦辺憲法」※2を徹底してやる。つまり、難解で色んなことが書いてある参考書より、基本的なことしか書いていない参考書を何回も読み込む方が自分に合っていると気付いたんです。

酒田:なるほど。

NONman:2010年に司法試験に合格して、2011年から京都の弁護士事務所に勤めています。そして、今の奥さんは当時の彼女です。

酒田:かっこよすぎる。

NONman:あきらめの悪い男なんです(笑)

(※1)Battle of the Year…毎年ドイツで行われ、世界最大規模を誇るブレイクダンスの世界大会。

(※2)芦部信喜(あしべ・のぶよし)。憲法学の権威。著書『憲法』(岩波書店)は累計100万部を超えるロングセラーとなっている。

女性で許せないのがひとつだけあって

酒田:好きな女性のタイプってありますか?

NONman:うーん、特に容姿にこだわりはなくて、好きになった人がタイプかな。

うちの母親がガミガミ系だったこともあって(そのおかげで今があるんですが)、やっぱりペースを乱されるのは嫌というか、心穏やかな日常を大事にしたいというのがあって、今の奥さんとは、リズムというか温度感が抜群に合ってるなと思いますね。

酒田:素敵ですね。

NONman:あ、そうそう。それでいうと女性で許せないのがひとつだけあって。

メイクで眉尻を下げすぎてる子。許せないというか、僕としては「自分の持っているものを上手く活かしていない」感覚なんですよ。

いや誰が決めたんそれ、みたいな

もちろん美しさの定義もいろいろあるし、今だったら整形だって、個々の美しさを追求するのは良いと思うんですけど。

僕はやっぱりその人が持っている容姿もそうだし、力(ちから)もそうだし、それを「自然に活かした美しさ」っていうのが好きなので。そこはこだわり。

酒田:なるほど。

NONman:いろんなメディアだったり、SNSだったり、雑誌だったりで、「こうなりたい」っていう顔があると思うんですよ。

酒田:メンズもそうですよね。

NONman:そうそう。「ローランドみたいになりたい」とかね。

もちろん美しさの基準としてアリだと思うんですけど、でもそれって結構、ある意味洗脳されてるというか、情報を浴びてしまって、そう感じてしまっている。


NONman:例えば「顔が小っちゃくないと美しくない」「顔小っちゃくて足長くて可愛い~」とかね。

いや誰が決めたんそれ、みたいな。黄金比とかあるんでしょうけど、美しさの基準って、僕は絶対それだけじゃないと思ってて、自分が好きっていうのを掘り下げたら、本当に自分が美しいと感じることって、もっと細分化されてくるだろうし、ぜんぜん違うところに実はあったりする。

酒田:メディアによる「画一的な美」の奴隷というか。

NONman:まさにそう。

メイクって「自分が美しいと感じているもの」と「自分」とのギャップを埋めるためのアクションだと思うんですけど、「そもそも本当に私はその人が良いと思ってるのか?」っていう自問自答は必要だと思う。

でも、女性ってすごないすか?毎日メイクする人もいるだろうし、本当に尊いと思いますよ。

酒田:いや本当に。

NONman:もっと言うと、メイクするときに「あー、私の顔もっとこうなってたらいいのにな」ってメイクするよりも、「私のここ可愛いな」って、愛しながらメイクできると良いですよね。

ウルトラマンってね、ずっとヒーローじゃないんですよ

酒田:子どもの頃の夢は何ですか?

NONman:ウルトラマンですね。

酒田:えっ、、

NONman:ウルトラマンってね、ずっとヒーローじゃないんですよ。

実は宇宙人で、仮の姿として地球人になって生活している。で、ウルトラマンに変身して戦うんですけど、地球上では3分間しか活動できない。3分って何やねんって話やけどね。

酒田:なるほど。

NONman:そういう二面性というかね。

スパイダーマンもそうですけど、暗さを持ったヒーローが好き。もしかしたら、普段はブレイクダンサーで変身したら弁護士みたいな、今の仕事の「振り幅」みたいなものにも繋がっていくのかも。

この振り幅を持てることがすごい大事

酒田:ノンマンさんの仕事の振り幅は、僕の理想でもありますね。

NONman:ブレイクダンサーから、弁護士っていう対極に行った。

この振り幅がめちゃくちゃ広くて(手を1メートルくらい広げながら)、感覚としては、そのちょうど間くらいに「起業」というものがあってチャレンジできた。

酒田:この間にあるものなら、何でもできるやんっていう状態ですね。

NONman:まさにそう。この振り幅を持てることがすごい大事。

酒田:パフォーマーでも起業する人はいますが、振り幅を持った人は少ないですね。

NONman:フリーランスでやっていた活動をそのまま法人化したところで、本人としては大きなチャレンジに思えても、世間的に見れば振り幅はゼロなのよね。

酒田:たしかに。

自分の基準を持った上で、ぜんぜん違う領域に飛び込んでいく

NONman:それよりも、ぜんぜんちがう領域でも活躍できる人材になって、それぞれのシナジー(相乗効果)を狙っていく。

例えば、パフォーマーをちゃんと続けながらでも、振り幅ってぜんぜん作れるから。そういう時代になってると思いますよ。

まずは一つを掘り下げて自分の基準を持った上で、ぜんぜん違う領域に飛び込んでいく。掘った上で広げるみたいな、この二軸がめっちゃ大事じゃないかな。

酒田:「一芸に秀でる者は多芸に通ず」と言いますか。

NONman:まさにそう。

やっぱり何の基準もないまま、大量の情報を受け取ると「ああー、どうしたらいいかわからん」ってなるけど、何かに打ち込んだ経験があって、自分の中に基準さえあれば、ものすごい情報量でも「これは大事」「これは自分にとって要らない」っていう取捨選択ができるから。

もっとサスティナブルに楽しめるものだと思うんですよ

酒田:ノンマンさんや一撃のメンバーが、今もダンスを続けていることで、世界のB-BOYシーンや文化に与えるプラスの影響は大きいと思います。

NONman:ダンスはやめる or やめないの二律背反的なものじゃなくて、もっとサスティナブルに楽しめるものだと思うんですよ。

酒田:なるほど。

NONman:スポーツでも何でも「夢に向かって頑張ろう」みたいな美徳ってあるじゃないですか。

酒田:スポ根ドラマというか。

NONman:そうそう。


NONman:でも、僕は「夢」ってね、正直あってもなくても、どっちゃでもいいと思うんですよ。

あるに越したことはないですけど、例えば「甲子園優勝」っていう夢。もちろん素晴らしい目標ではあるけれど、それって叶う人って全国で1校しかないわけですよ。じゃあ「叶わなかったらどうするの?」「叶ったとしてもその後は?」っていう刹那的な命題に帰結してしまう。

酒田:たしかに。

NONman:感動の消費は、その瞬間気持ちがいいけど、虚しさという燃えカスが残ってしまう。

これからの時代はそうじゃない。自分の気持ちも含めて、サスティナブルにパフォーマンスを成熟させて、追求していくこと。これがめちゃくちゃ大事。

酒田:なるほど。

何を大切にして、どんな人と、どこで、どうやって生きていくのか

NONman:そこで軸になるのが、僕がブレイキンで培ってきた「自分のスタイル」だと思う。

言い換えれば、自分って何を大切にして、どんな人と、どこで、どうやって生きていくのか。

今って激動の時代じゃないですか、コロナ禍でライフスタイルも変わったし、これからAIも出てきて、もっともっと色々なことがあると思うんですけど、どれだけ時代が変わったとて、「私が大事にしているものはこれです」と言えるかどうか。それを時代にマッチさせて生きていくことができるか。

もちろん人間なんで、上がったり下がったりはあるんですけど、そのときどきに自分の大切にしているものを大切にする。っていうのがこれからの時代は絶対必要。

ジャグリングもブレイキンもそうだし、これはパフォーマーだけの話じゃないし、自分の好きなものを掘り下げる。自分の好きなものにちゃんと向き合う。そしたら絶対に「自分のスタイル」が見えてくるから。


酒田:これで最後の質問になりますが、お風呂に入って最初に洗う部位はどこですか?

NONman:お〇〇〇〇ですね。

酒田:ありがとうございました!

石垣元庸(いしがき・もとのぶ)
弁護士。1978年生まれ、愛知県名古屋市出身。
大学在学中にブレイクダンスに出会い、日本が世界に誇るブレイクダンスチーム「一撃(ICHIGEKI)」で活躍。2005年には世界大会「Battle of The Year」に日本代表として出場し、Best Showを受賞。
その後、弁護士を志し、2010年に司法試験合格後、2014年にはクラブ風営法違反事件おいて無罪判決を獲得する。
ダンス×弁護士の肩書きを活かし、ブレイキンのオリンピック競技化(2024年パリオリンピックに正式種目採用)や、プロのダンスリーグ(Dリーグ)の立ち上げにも携わる。
また、2019年にはライブ配信イベントを中心に新たな事業展開を試みる「株式会社Next Produce」を立ち上げ、代表取締役を務める他、「TEDxNagoyaU」に登壇する等の講演活動も行っている。
Twitter:@ichigeki_non
Instagram:@ichigeki_non

撮影させていただいたお店

店名 村上開新堂
住所 京都市中京区常盤木町62
エリア 京都市役所前
アクセス 京都市営地下鉄「京都市役所前」より徒歩5分
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Text & Photo by 酒田しんご(@jugglershingo